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「ロンサム・ウェスト」

ロンサム・ウェスト

2014/5/3-6/1 新国立劇場 小劇場THE PIT

作:マーティン・マクドナー

翻訳・演出:小川絵梨子

出演:堤真一/瑛太/木下あかり/北村有起哉

美術:二村周作  照明:小川幾雄  音響:加藤温  衣装:伊賀大介

ヘアメイク:宮内宏明  舞台監督:瀬崎将孝

プロデューサー:北村明子

企画・製作:シス・カンパニー

 

あらすじ(引用元:公演パンフレット)

アイルランド西部の片田舎リーナン。 コールマンとヴァレンのコナー兄弟は父親の葬儀を終えたばかりだというのに、相変わらずくだらないことで罵り合いを始め、父の死を悼む気配などまったくない。兄弟にまともな倫理観を持たせようとするウェルシュ神父の奮闘は完全に空回りで、神父はおのれの無力さに酒に溺れるようになっている。そんな彼らのどん詰まりの生活に一陣の風を吹き込むのは、17歳のしっかり者ガーリーンだ。

 この村ではほかに肉親殺しの噂も飛び交い、兄弟が幼いころからよく知る警官は自殺し、あたかもカミに見放されたかのようである。すべてに絶望したウェルシュはある決意を秘めた手紙をガーリーンに託す。そこに書かれたウェルシュの思いは、兄弟の心を揺さぶるのだろうかーーー。

小川絵梨子という演出家を知ったのはつい最近で、昨年末から年初にかけて上演されていた堤真一と千葉哲也の二人芝居『TOPDOG/UNDERDOG』でした。おそらく私が初めて追いかけはじめた「超人タイプでない演出家」。(超人タイプ=いのうえひでのりとか、野田秀樹とか、ケラリーノ・サンドロヴィッチとか…戯曲書いて劇団持ってコレぞ○○演出!みたいな舞台ガンガンやってる感じ。あと演出一本だけど蜷川幸雄御大とかも超人タイプですね)もちろん演劇界では新進気鋭の演出家として有名で、演劇賞も多数受賞されている方なので、ディープな演劇ファンからすれば何をいまさら、って感じでしょうけど。

私が最近観た小川さんの演出作は『TOPDOG〜』に続き『帰郷-The Homecoming-』然り『クリプトグラム』然り「何かしら問題を抱えている家族の話」が多いのですが、とにかくその血縁者ならではの微妙な湿度というか、イヤ〜な感情とか他人同士ではありえない距離感をリアルに描くのがとても巧い演出家だなあと思っています。(確か『クリプトグラム』のポストトークで母親との関係が自分から見ると必ずしも良好ではなかった、みたいな話をしていたのが印象的で、その辺も影響しているのかな?と思ったり)

 

と、前置きが長くなりましたが、今回の『ロンサム・ウェスト』も再び「荒んだ兄弟もの」。そしてこんなに小川さんと再度早く組んでくれるとは思っていなかった堤真一と瑛太が主演ということで、公演概要が発表された時はかなり興奮したものです。 自分勝手で嘘つきでいい加減な兄(堤真一)、キレやすくてコドモな弟(瑛太)が荒んだ生活を送る”ロンサム・ウェスト”。タイトルの通り殺伐とした環境で行き場のない感情を互いにぶつけ合って暮らしているふたりのやり取りは、上演前に聞きかじっていたあらすじから想像していたものよりはかなりコミカルで、観客の反応も喜劇寄りだったのが意外でした。とは言えコレは笑えない…と絶句するようなネタもあったりするんですが。身内の喧嘩って他人同士のそれに比べて、取り返しのつかないレベルで傷を抉るもの、逆に何もなかったかのように流すのも容易だったりするのでその辺の関係がうまく表現できていたってことなのかなあ…『TOPDOG〜』の時も同じように思った記憶があります。

個人的には、ともすれば単なるドタバタ劇にもなりかねない空気を絶妙なバランスで引き戻す、ウェルシュ神父を演じた北村さんの演技が印象的でした。舞台経験豊富な堤さんとがっぷり組んでも引けを取らない瑛太にも感心。『ガラスの動物園』もよかったもんなあ…

基本的に兄弟の家(+α)でのやり取りになるので、セットを隅々まで観察する事ができたのですが、ひとつも揃いの物がない家具、わずかに残る母親の痕跡?といった要素も気になりました。あとは自分にちょっとキリスト教の素養があればさらに楽しめたかも。吹きだまりのような片田舎で逃げ場もなくそこに留まり、顔を突き合わせて暮らして行くしかない兄弟の不幸と未来を覗き見するような、そんな舞台でした。結末は後味悪くはなかったけど…きっとあの兄弟は変わらないんだろうなあ。 

 

余談。千秋楽には堤さん、北村さんと親交の深い演出家のデヴィット・ルヴォーが観に来ていて、開演前に気づいた私は密かに興奮していたんですが、カーテンコールでそれに気づいた舞台上のおふたりも大興奮。何だかこちらまでほっこりさせられました。(そしてその興奮のまま、数日後に開演となった『昔の日々』を観に日劇まで行ってしまった私…前々から演劇人の話に時々出て来るルヴォー演出に興味があったので…)